存在しない蚊や黒い点・黒いモヤが見えるようになる目の病気、飛蚊症。
生まれつきや加齢による生理的飛蚊症、および、強度の近視による飛蚊症は治療が不要なケースが多いです。
治療が不要なことが多い生理的飛蚊症に対し、特に注意が必要なのが、目の病気によってひき起こされる「病的飛蚊症」。
前回のブログでは、病的飛蚊症をひき起こすことがある、目の病気を4つ、ご説明させていただきました。
[病的飛蚊症をひき起こすことがある目の病気]
- 網膜裂孔・網膜剥離
- 硝子体出血
- ぶどう膜炎
- 目の感染症
今回は、上記の目の病気について、「飛蚊症の見え方を解消できるのか」に言及しながら、それぞれの治療方法をご紹介します。
目次
■目の病気を治せば、飛蚊症は解消されるの?
◎目の病気の治療をしても、見え方を元通りには回復できない場合があります
目の病気によって起きることがある、病的飛蚊症。
病的飛蚊症をひき起こすことがある目の病気は、様々です。病気の種類は様々ですが、はたして、病的飛蚊症の原因になる目の病気の治療を受ければ、目の前の黒い点や黒いモヤは見えなくなるのでしょうか?
答えは、「YES」「NO」の両方です。
病的飛蚊症の原因となっている目の病気を治療することで、飛蚊症が解消され、見え方を改善できるケースも。ただし、目の病気の種類や病気の進行度によっては、治療をしても、見え方を元通りには回復できない場合があります。
◎これ以上、見え方を悪化させないため・失明を防ぐために目の病気の治療を行います
病的飛蚊症となる目の病気、または、そのほかの目の病気を含め、眼科の治療では、目の状態や見え方を元通りには回復できない場合があります。
目の状態や見え方を元通りには回復できない場合がある、と聞き、患者様によっては「何で?“治療”なんだから、元通りにするのが当然じゃないの?」と思われるかもしれません。
疑問を抱かれるかもしれませんが、目の病気に対する眼科での治療は、主に、以下のような目的で行われます。
[目の治療の主な目的]
- 見えにくさ(視力障害・視野障害)を解消し、見え方を改善する
- これ以上、見えにくさを悪化させないようにする
- 病気が進んで、失明しないようにする
眼科での治療により、大幅に見え方が改善されることもあります(白内障手術など)。ただし、目の病気の治療を受けたからと言って、必ずしも、見え方が改善される、と保証はできません。
病的飛蚊症に対する目の病気の治療は、原則として、見え方の改善にはアプローチするものの、元通りへの回復を保証するものではないです。目の病気の治療は、見え方の改善にアプローチしつつ、視力の悪化や失明を防ぐのが主な目的、と認識していただければ幸いです(※)。
(※)水晶体を入れ替える白内障手術など、手術・治療によって
見え方を大きく改善できる可能性がある目の治療も存在します。
目の病気の治療の目的をご理解いただいた上で、次の項からは、病的飛蚊症に対する、それぞれの病気の治療方法をご説明します。
①網膜裂孔・網膜剥離
◎網膜の裂孔をふさぐレーザー治療or網膜を元の位置に戻す目の手術が必要になります
網膜裂孔・網膜剥離は、以下のような、様々な原因によってひき起こされます。
[網膜裂孔・網膜剥離をひき起こす可能性がある要因]
- 目の外傷(目への強い衝撃)
- 加齢
- 強度の近視(軸性近視)
- 糖尿病網膜症
- アトピー性皮膚炎
- 網膜静脈閉塞症
- ぶどう膜炎
網膜裂孔・網膜剥離の治療は、レーザー治療、または、目の手術が必要です。点眼薬など、手術以外の方法では、原則として、網膜裂孔・網膜剥離は治せません。
治療では、網膜の裂孔をふさぐレーザー治療、または、はがれた網膜を元の位置に戻す手術を行います。
網膜裂孔・網膜剥離に対する主なレーザー治療、手術としては、以下のようなものが挙げられます。
[網膜裂孔・網膜剥離に対する主な治療・手術]
- レーザー治療
目にレーザーを当て、網脈絡膜に瘢痕(はんこん:結合組織)を作ることで裂孔をふさぐと共に、網膜裂孔から起こり得る網膜剥離を防ぎます。
- 硝子体手術
目の中を満たすゼリー状の液体である硝子体の一部を切除することで、裂孔・剥離した網膜を眼底に戻す手術です。近年は、網膜裂孔・網膜剥離に対し、硝子体手術が広く行われています。
- 強膜内陥術(きょうまくないかんじゅつ)
網膜裂孔・網膜剥離を起こしている強膜の外側にシリコンスポンジを縫いつけ、眼球を内側に凹ませることで、網膜を眼底に戻す手術です。
②硝子体出血
◎レーザー治療、硝子体手術に加え、硝子体出血の原因になっている病気に対する治療が必要です
糖尿病、目の病気、目の外傷など、硝子体出血をひき起こす要因は様々です。
[硝子体出血をひき起こす可能性がある要因(基礎疾患・目の病気・目の外傷など)]
- 重度の糖尿病(糖尿病網膜症)
- 裂孔原性網膜剥離(網膜裂孔が原因で起きる網膜剥離)
- 網膜静脈閉塞症
- ぶどう膜炎
- 網膜細動脈瘤
- 加齢黄斑変性症
- 後部硝子体剥離
- くも膜下出血
- 目の外傷
硝子体出血は、軽度で、出血量がそれほど多くなければ、手術をしなくても、時間が経てば出血が治まる場合もあります(出血の自然吸収)。なお、手術が不要と見られる場合でも、網膜裂孔が起きているケースでは、レーザー治療を行い、網膜剥離を予防します。
硝子体出血を起こしており、出血が続く場合、または、出血量が多いときは、早急に眼科にて、硝子体を切除する手術の実施が必要です。
失明から目を守るには、硝子体を切除する手術に加え、硝子体出血が再発しないための対策も必要になります。硝子体出血の再発を防ぐためには、硝子体出血をひき起こしている原因となっている病気の治療が必要です。
[硝子体出血に対する主な治療・手術]
- レーザー治療(硝子体出血で網膜裂孔が起きている場合)
目にレーザーを当て、網脈絡膜に瘢痕(はんこん:結合組織)を作ることで裂孔をふさぐと共に、網膜裂孔から起こり得る網膜剥離を防ぎます。
- 硝子体手術
手術を行い、出血を起こした硝子体部分を切除します。目の病気の種類によっては、必要に応じて、空気・ガス・シリコンオイルを注入する場合もあります。
- 白内障手術(必要がある場合)
目の病気の種類や目の状態によっては、硝子体手術の効果を高めるために、硝子体手術と併せて、白内障手術を行う場合があります。
③ぶどう膜炎
◎ステロイドの投与を中心に、炎症を抑える治療を進めていきます
ぶどう膜炎は、ぶどう膜(虹彩・毛様体・脈絡膜)の炎症を起こす原因を特定できないことがあります。
[ぶどう膜炎をひき起こす可能性がある要因]
感染性ぶどう膜炎
- ヘルペス属ウイルス(単純ヘルペス、水痘帯状疱疹ヘルペス、サイトメガロウイルスなど)
- 真菌
- 結核菌
- その他の細菌
非感染性ぶどう膜炎
- サルコイドーシス
- 原田病
原因を特定できないことがあるため、ぶどう膜炎に対しては、炎症を抑えるために、ステロイドの投与(点眼薬・目の周囲組織への注射・内服薬)が治療の中心になることが多いです。
非感染性ぶどう膜炎に対しては、ステロイドによるぶどう膜炎の治療に加え、ぶどう膜炎の再発を防ぐために、原因となっている病気(サルコイドーシス、原田病など)の治療も必要になります。
[ぶどう膜炎に対する主な治療]
- ステロイドの投与
点眼薬や目の周囲組織への注射、内服薬でステロイドを投与し、ぶどう膜の炎症を抑えます。
- 抗菌薬や抗ウイルス薬の内服(感染性ぶどう膜炎の場合)
感染性ぶどう膜炎の場合は、ステロイドの投与と併せ、抗菌薬(抗生物質)や抗ウイルス薬の内服による治療を行います。
④目の感染症
◎抗生物質の投与を中心に、細菌の増殖を抑える治療を進めていきます
割合としてはそれほど多くないのですが、目に細菌が感染して病的飛蚊症を発症する場合があります。
[目の細菌感染をひき起こす可能性がある要因]
- 目の怪我(眼球に物が刺さったなど)
- 白内障・緑内障などの目の手術後の細菌感染
目の細菌感染により飛蚊症を発症したときは、早急に眼科での処置・治療が必要です。眼科での処置・治療が遅れると、最悪の場合、失明に至るケースもあります。
[目の細菌感染に対する主な治療]
- 抗菌薬の投与
点眼薬や目の周囲組織への注射、内服薬で抗菌薬(抗生物質)を投与し、細菌の増殖を抑えます。
- 再手術(白内障・緑内障などの目の手術後に重度の細菌感染が起きている場合)
白内障・緑内障などの目の手術後に重度の細菌感染が起きている場合は、目の再手術が必要になることがあります。
【見え方に異常・違和感がある方は、当院までご相談ください】
放置しても問題が起きにくい生理的飛蚊症と異なり、目の病気が原因の病的飛蚊症は、原則として、眼科での治療が必要です(※)。
(※)強度の軸性近視を除きます。
なお、病的飛蚊症に対する目の病気の治療を行ったからと言って、必ずしも、目の前の黒い点・黒いモヤが解消される訳ではありません。
飛蚊症の見え方が解消されない場合もありますが、眼科で受診し、治療を受けることで、これ以上、見えにくさが進行する事態を防ぎやすくなります。眼科での治療には、大切な目を失明から守る目的もあります。
前回にひき続き、今回は「疾患別 病的飛蚊症の治療方法」をご紹介させていただきました。
目の前に黒い点・黒いモヤが見えるなど、見え方に異常・違和感がある方は、当院までご相談ください。