糖尿病は、血糖値を下げる働きを持つインスリンが不足し、血糖コントロールができずに血糖値が高い状態が続く全身性の疾患です。
糖尿病には、以下の3つの大きな合併症が存在します。
[糖尿病の三大合併症]
・糖尿病網膜症(網膜症)
・糖尿病腎症
・神経障害
いずれの合併症も進行すると重篤な症状をひき起こします。中でも、失明の危険性があるのが、目に起きる糖尿病の合併症、「糖尿病網膜症(とうにょうびょうもうまくしょう)」です。
今回は、糖尿病の方に注意していただきたい目の合併症「糖尿病網膜症」について、発症のメカニズム(原因~発症~進行のメカニズム)と症状をご説明いたします。
目次
■糖尿病網膜症の失明率
◎日本人で視力を喪失した方の約1割が糖尿病網膜症により失明しています
糖尿病網膜症は進行すると、失明に至ることがあります。
糖尿病網膜症は日本人の失明原因の第3位です。2019年の調査では、日本人で視力を喪失した方の約1割が糖尿病網膜症により失明しています(※)。
(※)厚生労働省、難治性疾患等政策研究事業、網膜脈絡膜・視神経萎
縮症に関する調査研究班「A nationwide survey of newly certified
visually impaired individuals in Japan : impact of the revision of
criteria for visual impairment certification 」(2019)より引用。
■糖尿病網膜症を発症し、失明に至るまでのメカニズム
目に起きる糖尿病の合併症「糖尿病網膜症」。
糖尿病網膜症で失明するのは、以下の2つが主な原因です。
①高血糖状態が続くことで起きる「網膜の損傷」
②高血糖状態が続くことで起きる「硝子体(しょうしたい)の出血」(目の中で起きる出血)
①高血糖状態が続くと、目の網膜が損傷して失明するリスクが高まります
{網膜の役割}
網膜(もうまく)とは、カメラで例えるとフィルムの役割を果たす目の器官です。網膜には外から入ってくる光や色を感じる神経が密集しています。
人間の目は、レンズである水晶体を通して外から入ってくる光を屈折させ、網膜上に光を集めることで画像を結び、物を見ています。
高血糖状態が続き、目の網膜が損傷して失明するメカニズム
1.高血糖で血液がドロドロになり、目に栄養や酸素が行き渡りにくくなる
糖尿病で血糖コントロールができず高血糖状態が続くと、血液がドロドロになっていきます。
血液がドロドロになると、目の網膜に十分に栄養や酸素が行き渡りません。栄養や酸素が不足した結果、網膜の神経(光や色を感じる目の神経)が傷つき、物が見えにくくなります(=糖尿病網膜症)。網膜の神経の損傷が進行し、失明することもあります。
②高血糖状態が続くと網膜の血管に異常が起き、目の中で生まれた新生血管(異常血管)が破れて硝子体出血により失明することがあります
{硝子体の役割}
目の内部にはゼリー状の液体である硝子体が満ちています。硝子体は眼球の中を透明に保ち、網膜を保護する役割を持っています。
{脈絡膜の役割}
眼球は硬い壁である強膜に守られています。強膜と網膜のあいだには脈絡膜(みゃくらくまく)という膜があり、脈絡膜が網膜に酸素を供給しています。
高血糖状態が続き、目の血管に異常が起きて失明するメカニズム
1.高血糖で血液がドロドロになり、目に栄養や酸素が行き渡りにくくなる
糖尿病で血糖コントロールができず高血糖状態が続くと、血液がドロドロになっていきます。
血液がドロドロになると網膜の毛細血管が狭まり、網膜が損傷して物が見えにくくなります(=糖尿病網膜症)。また、網膜の毛細血管が狭まって詰まる(閉塞する)と網膜上に血管が無くなる箇所(無血管帯)ができ、無血管帯の周りの毛細血管に負荷がかかって血管が破れ、網膜上で出血が起こります。
無血管体の発生により網膜上で出血が起きると、網膜や脈絡膜から急ごしらえの異常な血管である新生血管(異常血管)が生まれます。
{網膜や脈絡膜から新生血管が生まれる理由}
新生血管が生まれるのは、糖尿病で高血糖状態が続くことで血液がドロドロになり、網膜に栄養が酸素が行き渡らなくなるためです。
栄養や酸素が行き渡らなくなった網膜は「栄養と酸素が足りない このままではいけない 何とかしなくては」と急ごしらえの血管である新生血管を生み出し、何とか栄養と酸素を求めようとします。
新生血管は急ごしらえの異常な血管であり、もろく、破れやすい特徴があります。もろい血管のため、いったん破れると目の中で大出血(硝子体出血)をひき起こしやすいです。
高血糖状態が続く→網膜の神経が損傷すると共に、異常な血管である新生血管が生まれる→新生血管が破れ、硝子体出血をひき起こす
硝子体出血が起きた場合は、高確率で失明に至ります。ただちに処置を行うことで失明を食い止められるケースもありますが、硝子体出血は数時間程度で失明する場合もあるため、早急な処置・治療(ケースによっては手術)が必要です。
◎糖尿病網膜症が原因の目の疾患により、失明に至るケースもあります
糖尿病網膜症による失明の多くは、上記の「網膜損傷」および「硝子体出血」が原因です
網膜損傷と硝子体出血のほか、糖尿病網膜症がひき起こす以下の目の疾患により、失明に至るケースもあります。
[糖尿病網膜症が原因で発症する可能性がある目の疾患]
・網膜剥離
・白内障(糖尿病性白内障)
・緑内障(糖尿病性緑内障)
■糖尿病網膜症の症状(失明に至るまでの経過・前兆現象)
◎糖尿病網膜症の初期~中期は症状を感じにくいです
糖尿病網膜症の初期~中期は症状を感じにくいです。
目の痛みや視界の異常を感じにくいため、多くの場合、患者様ご自身では糖尿病網膜症に気づけません。糖尿病網膜症に気づかず、放置した結果、ある日突然、硝子体出血が起きて失明に至るケースもあります。
1.初期(単純糖尿病網膜症)
高血糖状態が続き、網膜の毛細血管が狭くなって網膜への血流が悪くなり始めた状態です。網膜上に点々・まだら模様の出血が起きます。
<症状>
・自覚症状はほとんどない
自覚症状はほとんどありません。多くの場合、患者様ご自身では気づけず、眼科での検査にて発見されます。
2.中期(増殖前糖尿病網膜症)
網膜の毛細血管がさらに狭まり、網膜に栄養や酸素が行き渡らなくなり始めた状態です。狭まりによって血流の勢いが強くなることで毛細血管が拡張し、網膜の出血が増えます。
網膜の出血により、眼底(※)に白斑(はくはん)と呼ばれる白いシミができることもあります。
(※)眼底(がんてい)・・・眼球の奥(後方)の
部分。眼底には網膜や視神経乳頭などがある。
<症状>
・目のかすみ
・視力の低下
網膜の中心部である黄斑部に出血が起きた場合は、目がかすんだり視力が低下して症状を感じるケースがあります。ただし、黄斑部以外の出血においては自覚症状があまりなく、ご自身では気づけないことが多いです。
3.末期(増殖糖尿病網膜症)
網膜の毛細血管が詰まってしまい(閉塞)、網膜に栄養や酸素が行き渡らなくなった状態です。何とか栄養や酸素を行き渡らせようとして、網膜・脈絡膜から新生血管が生まれます。新生血管が破れると目の中で硝子体出血が起き、高確率で失明に至ります。
<症状>
・視力が低下し、物が見えにくくなる
・飛蚊症(常に蚊が飛んでいるように見える)
・カーテンがかかったように、視界が暗くなる
・視界に赤い膜が見える
・突然、視界が狭まり、何も見えなくなる(失明)
末期では上記のような症状が起き、患者様ご自身でも糖尿病網膜症に気づくことが多いです。
上記は、失明寸前の状態(または失明の瞬間)のときに起きる症状であり、早急な処置・治療(ケースによっては手術)が必要です。
特に注意が必要なのは硝子体出血です。新生血管が破れた場合は目の中で硝子体出血が起き、高確率で失明に至ります。硝子体出血は100%失明する訳ではありませんが、非常に危険な状態です。
糖尿病の方が上記の症状を感じた場合は、ただちに眼科で診察を受けてください。深夜・休診日などで眼科へ連絡を取ることができない場合は、救急車を呼ぶ、または、眼科に対応した救急病院に行き、早急に診察を受ける必要があります。
【眼科で定期検査(眼底検査)を受けましょう】
糖尿病網膜症による失明から目を守るためには、以下の3つが重要です。
①患者様ご自身の食事制限や運動による血糖コントロール
②眼科での定期検査(眼底検査)
③眼科で行う適切な治療(症状の進行が見られる場合)
患者様ご自身で行う血糖コントロールに加え、眼科で定期的に眼底検査を受けることで、糖尿病網膜症をはじめとする目の疾患・目の異常の早期発見・早期治療につながります。
血糖コントロールができており、眼科での定期検査で疾患の進行が見られなければ、糖尿病網膜症は治療や手術をせずに済むこともあります。
当院では、眼底検査を中心に、糖尿病の方を対象にした定期検査を行っています。
大切な目を糖尿病網膜症から守り、失明を防ぐために、眼科で定期検査を受けましょう。
今回は、糖尿病網膜症のメカニズム・症状についてご説明をさせていただきました。次回のブログでは、「糖尿病網膜症の治療方法・予防の仕方」をご紹介いたします。